MCもグルメも一切なし!ひたすら車窓の景色と電車の音を楽しむ… | FRIDAYデジタル

MCもグルメも一切なし!ひたすら車窓の景色と電車の音を楽しむ…

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『ヨーロッパ トラムの旅』の本気度

長引くコロナ禍で「旅をしたい」「遠くへ行きたい」欲が溜まりに溜まっている人はたくさんいるだろう。

そうした人たちに不思議な旅の臨場感を提供してくれるのが、NHK『8Kヨーロッパ トラムの旅』だ。

ヨーロッパの様々な都市において、トラムに乗っている目線で景色が映し出され、時折靜かな曲が流れるのみで、MCもゲストもいなければ、ナレーションもほとんどなし。グルメやお店など、雑多な情報は一切なく、ひたすら車窓から見える景色と電車の音を楽しむ番組なのだ。なぜコロナ禍にこうした番組を?

同番組のチーフプロデューサー?木村和人氏(現?NHKコンテンツ開発センター)とシニアプロデューサー?今井陽子氏(NHKエンタープライズ)が番組誕生の経緯などについて教えてくれた。

チェコ?プラハ編より
チェコ?プラハ編より ■もっと見たい方は寫真をクリック!

「企畫のきっかけは、『制作費を抑えつつ、長く何度も楽しめる8Kの番組をヨーロッパで作ってくれ』という発注を受けたこと。?

そこでNHKエンタープライズの今井さんや、當時東京にいたプロデューサーなどと、時間が稼げてヨーロッパの真髄が楽しめる紀行番組で、8Kで撮れるものは何かと話す中で、トラムに8K機材を載せ、綺麗な景色と名勝、その都市にある美しいもの撮りまくろうということになりました。?

8Kは畫面に映り込む映像の解像度が高く、情報量がすごく多いんですよ。なおかつ5.1サラウンド音聲でロケを全部やっていますので、8Kで観ると実際にトラムに乗って街をのんびり旅しているような感覚にたっぷり浸ってもらえるんです」(木村和人氏 以下 木村氏)?

実は木村氏は8月末までNHKエンタープライズの海外現地法人でロンドン、パリに事務所がある「NHKコスモメディアヨーロッパ」という會社に5年間出向していた。

そこでは英國ロイヤルバレエに2人の日本人プリンシパルが誕生したときのドキュメンタリーや、8K「世界の祭り」や『関口知宏のヨーロッパ鉄道旅』や『ラトビア100年物語~歌と踴りでつないだ誇り~』のドキュメンタリーなど、4Kや8Kの番組を制作してきたという。

ところで、本家の8K版は2018年12月に始まったが、多くの視聴者はNHK総合もしくはBSプレミアムやBS1で2020年2月から深夜に放送されている60分版の総集編を観ているわけだ。

しかも、面白いのは、本來の8K版は“情報量が多すぎる”ために、人によって、そのときによって、見る場所も変わってくるということだ。

「例えばプラハの街中を走っていても、建築に興味のある人は建築を、ファッションに興味がある人はショーウィンドウや街を歩く人のファッションを、車に興味のある人は車をといった具合に、人によって8K映像で飛び込んでくる情報の質と中身が違うんですね。?

でも、旅はそういうものじゃないですか。人によって目的も、見たいモノも違いますから。?

ですから、制作者がこれを見なさい的な情報をテロップで打つことは絶対にしたくないというのが、僕のポリシーでした。?

NHK的には『もっと情報を伝えてくれ』という思いもあったでしょうが、今の視聴者の皆さんは、上から目線で伝えるよりも、自分が感じたことを自分で調べる、チェックしたいという方が多いと思うんですよ。それで、視聴者サイドに立った番組にしようと、あえて雑多な情報を打たない方向に舵を切ったんです」(木村氏)?

また、今井陽子氏は木村氏の企畫書を見たときの印象についてこう語る。

「北歐では『スローTV』というジャンルがあるんですよ。?

例えば、スウェーデンでは、ヘラジカが大自然の中で季節的な大移動をする様子を何時間もかけて複數のカメラでただ追いかける番組があったり、ノルウェーには鉄道の始點から終點まで、9時間ぐらいかけてひたすら車窓や車內を撮る番組があったり、おばあさんたちが毛糸をつむぎ、編み物を始めてから終わるまでを9時間ずっと撮り続けたり。?

5~6年前からコンテンツ市場でそういったものが話題になり始め、『スローTV』というジャンルとして確立されているんですが、それに近いなと思いました。?

今はテレビを凝視するのではなく、何かしながら観る人が多いじゃないですか。特に今ご覧いただいているBSや総合テレビにおいては、夜中に會話したり、ボーッとしたり、考え事したりしながら観ていただけるのではないかという実験的な意味もありました」?

ポルトガル?リスボン編より
ポルトガル?リスボン編より

ちなみに、最初にトライアルで撮った場所はリスボンだったそうだが……。

「もちろん車窓も面白いんですけど、車內で繰り広げられる會話が面白くて。?

でかいカメラが運転席の後ろに構えているにもかかわらず、おじいさんが運転手の隣に行って下世話な噂話をラテン系特有のノリで喋ったり、かと思えば、『あそこのカフェが美味しいよ』なんて會話が聞こえてきたり。?

映像だけじゃなく、その土地の匂いやお國柄が感じられるような車內の會話が8Kでは聞こえてくるんですよ。?

それに、トラムの場合、普通の電車と違って信號待ちがあるのも面白い。ポルトガル?リスボン編では特に、車が狹い道いっぱいに渋滯していて、トラムが進まない狀態になるときがあるんですが、すると試寫の時にはみんなが外で何が起きているのか確かめようと、無意識に背伸びするんですよ(笑)」(木村氏)

こうした現象が起こるのは、トラムに実際に乗っているような臨場感あってのこと。

オーストリア?ウィーン編より
オーストリア?ウィーン編より

ちなみに、1つの都市2回放送分のロケ期間は、2泊3日程度。極力一般のお客さんに迷惑をかけないよう、限られた時間帯にピンポイントで撮影するため、かなり過酷なスケジュールである。

「非常に制約が多いロケなので、最初は8Kカメラ1臺で正面撮って、右脇、左脇みたいに撮っていましたが、途中からは8Kカメラ1臺と6Kカメラ2臺くらいになりました。とにかく揺れないようにするために、床にゴムシートを敷いて、その上に重い三腳をのせ、砂袋で固定して、絶対に倒れないようにしています。?

撮影スタッフはカメラマンとカメラマン助手、8Kならではのフォーカス専用の人、5.1サラウンドの音聲マンと撮影データを処理する人、ディレクター、ドライバーの5~7人くらい。?

一度に撮影できるのは1時間だけで、すぐにデータを処理しなければならないので、ドライバーに次の地點に先回りしてもらって機材を載せ替えたり、ときには重い機材を抱えて乗り返したりと、アクロバティックな撮影ですよ」(木村氏)?

イタリア?ローマ編より
イタリア?ローマ編より

さらに、ロケの大変さは都市によって異なる。

「夏はまだ良いですが、冬は地獄。特にポーランドのクラクフでは、朝8時ぐらいに太陽が出て、14時頃には暮れてしまうんです。だから、朝ご飯をたくさん食べておいて一気に撮り、14時過ぎにお晝と夕飯を兼ねて食べつつひたすらデータ処理をする、と。?

また、決まりごとが非常に多くて、許可取りなどが大変だったのはドイツで、逆に一番楽なのはポルトガルで『なんでも好きに撮って良いよ』という感じでした(笑)」(木村氏)

また、鉄道ファンからは「もっと車両や運転席の情報がほしい」といった聲もあるそうだ。

「面白いのは、セルビアの車両ですね。チェコとかスイスなど周辺國から車両を譲り受けているんですが、それを加工せずそのままの形で走らせているから、街中、色とりどりの車両が走っているんですよ。いただいたままの原型をとどめて走らせているのが、感謝なんだそうです」(今井氏)?

セルビア?ベオグラード編より
セルビア?ベオグラード編より

最後に、お勧めのポイントをお二人に伺った。

「音に関して言うと、ブダペストならリストの曲、ポーランドはショパンなど、その街にゆかりのある音楽を使っています。?

ただし、主役はトラムのガタンゴトンといった音なので、車內ではなるべく音楽はつけず、生音を生かしているんですよ。?

8K版ではさらにプラハの13世紀の時計臺の音や、クラクフの聖マリア教會で正時ごとに鳴るトランペット、石畳を馬車が通る音など、街の音も聞こえるのも魅力です」(木村氏)?

「トラムの映像として魅力的なのは、チェコのプラハやハンガリー、ローマ、ウイーン、アムステルダム。あまり日本人が行かないところで、ラトビアやエストニア、ドイツのライプツィヒなども良かったですね。?

全體的にソ連圏にあった國のほうが、トラムが街の中に殘っていますが、環境問題によってトラムが見直されるようになり、今はパリの郊外で復活するなど、近代史や文化などが見える面白さもあります」(今井氏)?

NHK総合やBSプレミアム、BS1において不定期で深夜に放送されているため、「たまたま出會えたらラッキー」という存在になっている『ヨーロッパ トラムの旅』。いつか真の実力が味わえる8K版もぜひ観てみたいものだ。

『8Kヨーロッパ トラムの旅』(NHK)の放送予定はコチラ

  • 取材?文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作會社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌?月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒體で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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